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2007年 4月 6日

“ユニーク”だけで終わらないために - 【うちの個紋】寺本哲子様

開店休業の状態が1年間も続く

【うちの個紋】寺本哲子様

 今回ご紹介するのは、自身のキャラクターや好みを反映した、家紋ならぬ個人的な紋“個紋”を作成するという、非常にユニークなサービスを提供している【うちの個紋】のWebマスター寺本哲子様だ。何気ない雑談から始まったサイトは、口コミに乗って話題となり、今ではマスコミの取材が続くような人気サイトに成長してきている。

 Webマスターの寺本様は、WEBシステム開発やWEBのブランド構築をメインに活動する『でじまむワーカーズ』を主催している。「1995年12月に日本ではじめてのインターネット上のママさんサークルをはじめました。デジタルなママたちで『でじまむ』、このときのメンバーと起業をして、SOHOで仕事を請け負うために作ったのが『でじまむワーカーズ』です。」 主婦3名で始めたユニットであったが、設立8年目を迎え、現在では女性ばかりの9名という規模となっているそうだ。

【うちの個紋】トップページ

 「うちの個紋」というサイトを開始したきっかけも、その活動の中の何気ない会話からだった。「たまたま会社に遊びに来た22歳のデザイナーと話していて、『家紋がブームらしいけど、家紋ってかわいくないよねー』ということから、『じゃ、ペットのためとか自分のこどものためにかわいい家紋を作ってあげて、それをいろんなモノにプリントしたサービスをすればおもしろいんじゃない?』という話になりました。」

 ちょっとした世間話から新しいサービスを思いつく、ネットビジネスに関わっていれば誰にでもこんな経験があると思われるが、その多くは実現されること無く忘れられていくものだ。しかし、この“個人用のかわいい家紋”の企画は一気に具体化していく。

 家紋ではなく個人の紋であり、関西では自分のことを“うち”というので、「うち」の「個紋」。ペットのことを「うちのこ」と呼ぶのだから「うちのこ」の紋。そんな連想から話は膨らんでゆき、2004年11月にサイトを立ち上げるまでに至ったのだ。

 そのサービス内容は、自身のキャラクターや好みを反映した、個人的な紋を作成するというものであり、料金は個人ユーザーは5万円、法人ユーザーは10万円。購入した個紋は、名刺やパンフレット・チラシなどに自由に使うことができる。

 ユーザーからの発注を受けた後、同店が契約しているデザイナー「紋師」たちがデザインに取り掛かる。「3点の下書き(ラフ)案をはじめにご提示します。ここから一つのデザイン案を選んでいただいた後、清書した状態に起こしていきます。大枠が決まれば、後は細かい調整だけなので、だいたい3回以内でお客様に気に入っていただいています。」 ユーザーからの色々な要望を紋という形式でデザインするのは簡単なことではないと思われるが、サイトのサンプルなどを見る限り、非常にクオリティーの高い作品に仕上がっているのが分かる。

 しかし、サイトの立ち上げ当初は全く反応が無く、1年の売り上げはわずか18万円にしか過ぎなかったのだそうだ。「まず、コンセプトが理解されない。どんなお客さんがいるのかわからない。5万円が高いのか安いのかわからない。説明してもわかってもらえず、開店休業のような状態でした。ですから、もうほとんど趣味と割り切ってやろうかと思っていましたし、周りからもそう思われていました。」 新しいカテゴリの商材となるだけに、ユーザー側の戸惑いも大きかったのだろう。

 また、売り手側にも戸惑いがあり、「広告も、どんなキーワードで売っていいかわかりませんでした。個人向けには値段は高いと言われていて、かといって値段を下げれば注文が増えるとも考えられません。実際にやり取りにも時間がかかりますし、すべてにおいて試行錯誤で、何から手をつけていいかわからない状態でした。」

 しかし、サービスのユニークさから何度もマスコミに取り上げられるうちに、同店の存在は次第に口コミで広まってゆく。ここ1年ほどで急激に受注を増やし、開店休業状態だったサイトは生まれ変わったのだ。

サービス名に造語を使うメリット・デメリット

独創的な個紋が作成されている

 同店のサービスを利用しているユーザー層は、やはり「組織という枠にとらわれず個人で活動する方が、自己アピールのために使われることが多いです。その他、お店の紋で注文される方も増えてきました。」 と、自身のシンボルマークを必要とする、幅広い層となるようだ。「当初は“高い”という印象があったようですが、最近はあまりそう言われることも少なくなってきました。自分への投資を惜しまない人が増えてきたのも一因かと思います。」 個人ユーザーからも、自ら運営するブログのロゴ用にという発注があったりと、想像以上にそのサービスは受け入れられているようだ。

 完全に同店のオリジナルと思える個紋作成サービスであるが、競合が無いという訳ではない。「競合といえば“ロゴ”のキーワードが多いですね。ロゴで検索してみると、なんと競合の多い市場かと思います。ただ、“紋”で検索して注文してくださる方が多いのです。」

 同店のような独自のサービスを提供する場合、サービス名称は出来るだけ一般的な、検索ワードとなりやすいものが良いとも考えられる。「個紋」という造語を前面に出すことは、その言葉自体が定着するまで時間がかかってしまうことになるため、「オリジナル家紋」とでも称した方が危険は少ないはずだ。

 しかし、最近では事情も変わってきたそうだ。「最近、家紋に対して個紋が定着してきたらしく、個紋で検索して注文してくださるかたもいます。検索エンジンからのコンバージョン率は結構高いのです。」とのことである。実際にGoogleで「個紋」を検索してみると、すでに15,000件を超えるヒットがある。すでにある程度は認知されてきた言葉となってきているのだ。同店の戦略は非常に上手くいったと言えるだろう。

個紋を使ったグッズ販売も開始

似顔絵紋を使った名刺販売なども

 また、同店では、依頼者の似顔絵をもとにした「似顔絵紋」というサービスも行っている。「似顔絵は元々多くのサイトがあり、似顔絵紋は、シンプルでモノにつけやすいという点で新しいコンセプトだと思います。ちょっと違った似顔絵が欲しい人に受け入れられています。」 似顔絵と家紋を融合させたスタイルであるため、数多く存在する似顔絵サイトが同種のサービスを取り入れてくることも考えられるだろう。すでに一部のサイトでは実際に受注を開始しているようだが、「家紋自体がもっとブームになって市場を拡大できるのは大歓迎です。」 と、その動きを歓迎しているそうだ。

 さらに、個紋作成にとどまらず、さらにその個紋データをTシャツ・名刺・ワインラベルなどへ印刷したグッズの販売も開始した。まだ本格展開の前の段階だということで、売上げ比率は全体の2割ほどだそうだが、「オーダーを受けているのは8種類、試作段階のものや手配可能なものは30種類くらいあります。」と、幅広い展開を狙っている。

 こうしたグッズの制作では、それぞれの専門メーカーとの協業体制をとっている。メーカー側からの関心も高く、積極的な意見交換を行っているそうだ。「昨年9月から経済産業省の新連携構築支援事業に採択されて、メーカーの方たちの連携体構築委員会を月に1回開催しながら、情報交換や試作をしています。実際モノを作るために、メーカーさんたちとコミュニケーションを取っておくと、新しいアイデアも出てくるし、お客さんの対応についての情報共有やアイデアが出てきて楽しいものです。」

 このように、同店のサービスは、全ての面において外部メーカーやSOHOとの共同作業が大きな比率を占めている。社内での作業に比べてどうしてもコミュニケーションが希薄となりやすいため、そこに難しさを感じることはないのだろうか。「内部とも外部とも、コミュニケーションには特に気を遣っています。お客様の対応については、できるだけ情報を共有し、定期的にお茶会などをして情報交換をするようにしています。今のところ顔の見える関係以外では共同作業はしていません。」 運営者とデザイナーやメーカーが、それぞれ違った方向を向いていたのではユーザーの不信感を招いてしまう。意思統一を図るためには細心の注意が必要となるだろう。

“口コミ”が最大の武器に

 ユニークなサービスだけに、同店のマスコミへの露出は続いており、つい先日にはラジオ番組の企画としても大々的に採用された。「男性のための和の雑誌『助六』があるのですが、昨年9月にうちの個紋を特集で取り上げていただきました。V6の三宅健君も、この雑誌で日本の和を学ぶ連載を持っていて、その企画は東京BayFMの『三宅健のラヂオ』との連動企画だったのです。助六の掲載記事を見て、ラヂオ番組の個紋を作ってくれないかという依頼がありました。」

 この企画用に、3人の紋師がそれぞれラフ案を提出し、リスナー投票で個紋を決定するという内容となったそうだ。「リスナーの方の評判もよく、三宅君ご本人にも個紋のついたふろしきや携帯ストラップを直接プレゼントできて、スタッフ一同、本当にこのサービスを始めてよかったと思いました。」 同店の知名度が増すだけではなく、スタッフの方々の励みにもなったに違いない。

 このようにして知名度を高めている同店であるが、広告宣伝はGoogleのアドワーズに出稿している程度なのだそうだ。「アクセスアップだけに気を遣っていませんし、実は、告知もあまりしていません。それほどアピールをしていない分、見つけたときの感動が多いような気がして、リンク依頼も熱心にはお願いしていません。」 最近のショップとしては控えめとも思える方針をとっているようだ。

 その代わりとして、同店が重視しているのは“口コミ”だ。ユニークなビジネスだけに、口コミに乗りやすい要素は持っており、今の規模まで成長できたのもその力が大きいという。「ブログなどで取り上げていただいているのは定期的にチェックしています。できれば、すべてにコメントをつけられたらいいのですが、なかなかです。」 地道な活動のように見えるが、このようなコミュニケーションを続けることが口コミを広めるための近道となるのかもしれない。

 その他にも、同店では個紋の雰囲気を取り入れた年賀状素材や壁紙の無料配布を行っている。「年賀状は一昨年から始めていますが、昨年末のイノシシはかなりアクセスがありました。12月は売り上げが多い月なので、ダウンロードがどれだけ貢献したかはわかりませんが、いろんな人に気に入ってもらえたのが嬉しいです。」 デザイン性が売りとなる同店のようなサイトでは、アクセスアップのための効果的な戦略だと言えるだろう。

 今後の展開を伺うと、「もうすぐオーダーメイド以外に“プレタポルテ個紋”を発表できると思います。一から作るのももちろん楽しいですが、手軽に個紋を選んでいただけるようにしたいと思っています。」と、商品ラインアップを拡充し、もっと気軽に購入できるようにしていくそうだ。

 「『あなたの家紋はなんですか? あなたの個紋は何にしますか?』というキャッチどおり、個紋を持つ文化を世界に広げて行きたいと思っています。」 単にユニークなビジネスにとどまらず、永く市場に定着するサービスを目指して、さらに先へと進んでいくようだ。

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